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恐ろしい感染症「天然痘」が日本で流行した“原因”とは?

鬼滅の戦史⑯

■疫病が蔓延したのは、蘇我氏が仏法を広めたせい?

疫病退治の神と伝わった源頼朝の叔父・源為朝『鎮西八郎為朝」/都立中央図書館蔵

 世界中に蔓延して猛威を振るう新型コロナウイルス。第二次世界大戦終結後の我が国を襲った、最大の試練といえるかもしれない。

 

 しかし、歴史を振り返ってみれば、感染症との戦いは、1度や2度のことではなかった。それこそ、数え切れないほど疫病に苦しめられてきたことが、史書にも随所に記されている。古いところでは、敏逹(びだつ)天皇の御代に疫病が蔓延したことが『日本書紀』に見える。蘇我氏が仏法を広めた(6世紀中頃)ことで、国神の怒りを招いたとみなされたようである。

 

 さらに、奈良時代の天平7735)年から天平9737)年にかけても、疫病が大流行。この時は何と、総人口の2535パーセントにあたる100150万人もの人々が亡くなったとか。当時勢威を誇っていた藤原四兄弟なども、この伝染病がもとで亡くなったのだ。ただし、当時はそれを、長屋王の祟りと考えられたものであった。

 

■「源為朝が疱瘡神を退治した」と、まことしやかに語られた訳とは?

 

 もちろん、ここに記した両疫病の流行が、神の天罰や祟りなどに起因するものでなかったことはいうまでもない。大陸との交流が頻繁になるにつれ、ウイルスが持ち込まれる頻度が高くなっていったこと、それが原因である。病名は前者は不明ながらも、後者は疱瘡、つまり天然痘であった。

 

 ちなみに天然痘とは、天然痘ウイルスから感染した人が発する唾液飛沫などを吸い込むことによって二次感染を引き起こすという感染症。2週間前後の潜伏期間をおいて、39度以上の高熱を発するという。頭痛、吐き気を伴うとともに、顔や肢体を中心として発疹が現れるのが特徴的。その後、水膨れとなって膿が出た後、かさぶたができて治癒するとか。ただし、肺炎や脳炎などの合併症を引き起こして死亡するケースも多いというから、恐ろしい病であることは間違いない。

 

『鬼滅の刃』に登場する鬼たちは、鬼の首領・鬼舞辻無惨(きぶつじむざん)の血を浴びることで鬼化したというが、天然痘は唾液の飛沫だけでも感染するわけだから、考えようによっては、鬼滅の鬼以上に恐ろしいものであったと言えるかもしれない。

 

 ともあれこの感染症、いつ頃からかは不明だが、いつしか疱瘡神という名の疫病神の仕業とみなされるようになったようである。源頼朝の叔父にあたる弓の使い手・源為朝(みなもとのためとも/11391170年頃)が、伊豆大島に流された頃の話として疱瘡神(ほうそうしん)が登場するから、すでに平安時代末期には、疱瘡神にまつわる信仰が広まっていたようである。

 

 当時、都では疱瘡が猛威を振るったにもかかわらず、為朝のいた伊豆大島だけが蔓延を逃れたとか。そこから、いつしか為朝が疫病退治の神と崇められるようになったというのである。後には為朝に加え、魔除けの霊験あらたかな道教の神・鍾馗(しょうき)や、武勇の誉れ高い金太郎こと坂田金時までもが、疱瘡絵なるお守りに描かれ、庶民の間で流行った。疱瘡神が赤色を嫌うとの俗信から赤一色で刷られ、俗に赤絵と呼ばれたようである。

 

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藤井勝彦ふじい かつひこ

1955年大阪生まれ。歴史紀行作家・写真家。『日本神話の迷宮』『日本神話の謎を歩く』(天夢人)、『邪馬台国』『三国志合戰事典』『図解三国志』『図解ダーティヒロイン』(新紀元社)、『神々が宿る絶景100』(宝島社)、『写真で見る三国志』『世界遺産 富士山を行く!』『世界の国ぐに ビジュアル事典』(メイツ出版)、『中国の世界遺産』(JTBパブリッシング)など、日本および中国の古代史関連等の書籍を多数出版している。

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